【後編】ベトナム人にウェブを任せていたらウイルスが。なぜか訴えられるはめに

【後編】ベトナム人にウェブを任せていたらウイルスが。なぜか訴えられるはめにベトナム(海外)で仕事

僕の運営サイトが突然ウイルスに侵されて消えるはめに。しかも管理を任せていたベトナム人エンジニアが僕を訴えようと……。そしてサイトのログイン情報を持ったまま夜逃げする可能性も。ベトナムで仕事をして5年。最も大変だった事件を紹介。後半です。

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9月1日:僕の知らないところで妻がブチ切れていた

 9月1日:僕の知らないところで妻がブチ切れていた
イメージ。最高の写真が見つかりました

いつの間にかコアからの連絡が途絶えていた。コアは契約書の件はどうしたのだろうか。僕はそれとなく妻に訊ねてみた。すると、妻はバツが悪そうな顔をして、僕にあやまってきた。
「ごめんなさい。一昨日コアに電話して、ブチ切れちゃった……。だってコアがあんまりしつこく契約書はどこだ、訴えてやる、多額の損害賠償だからな、って脅してくるんだもの」
「それで、君は何を言ったんだ?」
「ううん、たいしたことないの。弁護士を雇ったとか、契約書にはしっかりとコアの会社がウイルスを守る義務があるって書いてあるとか、あなたの言っていたウイルスのファイルはトロイの木馬でサイトを消す力はないとか。あなたは1つのサーバーで100社もの顧客の管理をして、しかも外部バックアップもとっていないし、サーバーとの契約も一番安っちいもので、保守管理の義務を怠っているって……」
「なるほど。つまりこっちが持っている武器全部言っちゃったんだね。そのどれもコアは言い逃れできないものばかりだよ。で、それでコアはなんて?」
「何も言わずに電話切られたの。そのあと私もしまった、って思って何度も電話したんだけど、繋がらないの……。別の携帯から電話したら一瞬出たけど、私の声ってわかったらすぐに切られた」

これは非常にまずい。今度はコアが僕たちから訴えられると思って怖がっているんだ。コアと連絡とれなくなったら、サーバーのログインIDも分からないし、ドメイン会社に移転の連絡もできないしオースコードも聞けない。

僕はもう一度荒ぶる妻に事の重大さを伝えた。これ以上彼を刺激したら駄目だ、と。

9月2日~6日:コアに鬼電

9月2日~6日:コアに鬼電
日本に住んでいたときは1日120件のテレアポをする営業マンだったのでちょろい

それからおよそ一週間、妻も私もコアに電話とメールを嫌がらせか、というくらいにした。僕はフェイスブックとスマホにメッセージを連発したが、結局1つも返信はなかった。最初は僕も努めて冷静に『損害賠償もすべて諦める。だからドメインの移転とサーバー情報をくれ』と送っていたが、返信がないため、僕も次第に堪忍袋の緒が切れて、途中からは『もし明日以内に連絡よこさなかったら警察に事件として報告する』と脅し文句も含めた。しかしそれでも返信はなかった。

9月6日:決戦の前夜。最後通告のメールを送る

9月5日:決戦の日。相手の事務所兼自宅に襲撃
さすがにここまでの準備はなかった

そして6日の夜、妻と「明日コアの自宅に行こう」と話した。どうやら自宅兼事務所である家は、最近購入した新築であり、コアの両親と祖父母も一緒に暮らしているとのことなので、夜逃げすることはないと踏んでいた。そして、深夜2時くらいにコアにメッセージを送った。その内容はこうだ。
『明日僕と妻と弁護士で君の自宅に行く。最初にコアの地元の警察にも寄って行くから、時間は何時になるか分からない。でも午前10時までにサーバーの情報とドメイン移転の手続きをしたら、許してやる。それ以降はもうこっちも一切取り合わない。全面交戦といこう――』

9月7日:さあ、はじめようか!相手の事務所兼自宅に襲撃

実際彼の自宅はベトナム戦争でゲリラ戦が行われたクチにある

そして7日午前10時。スマホをチェックして、僕にも妻にもコアからの返信がないことを確認。ヤマハのバイクに乗って、コアの自宅に向かった。僕の住んでいるホーチミン市中心からおよそ2時間の道のりだ。道中は田園風景が続く田舎道を走り続けることになった。もちろん弁護士を連れて行くというのも警察に行くというのも嘘だ。そうすれば向こうも切羽詰まって返信をしてくるだろうと読んでいたが、あてがはずれた。

9月7日午後1時:コアの自宅到着&下見

9月7日午後1時:コアの自宅到着
イメージ写真だが、だいたいこんな感じの家

平屋の一軒家。新築と言っていたが、それは嘘のようだ。隣は空き家で600万円で売りに出されていた。それよりも多少土地が広いので、おそらく地価は700万円ちょっと。まあ27歳で家を購入できたんだから申し分ないだろう。

実は妻が最後にコアと電話で話したとき、「いまサイトが消えた顧客から損害賠償請求がきていて、1つのサイトにつき10万円払うことになってるんだ」と言っていたらしい。つまり100サイト消えたということは、ざっと1000万円の支払い。家を売っても足りない……。そう思うと多少コアのことが気の毒になった……3秒くらい……。

9月7日午後2時:決着

9月7日午後2時:決着

コアは自宅にはいなかった。その代わり、コアの従業員1名と母親、祖母の3人がいた。僕と妻は母親と祖母に促されてリビングの木造の長椅子に座った。目の前のテーブルには果物が置かれていた。そして向かいに母親が座り、「いまコアは出かけているから、仕事の話ならユンと話して」と言い、従業員のユンが母親の隣に座った。まだ若い。おそらく二十代前半の好青年だ。

そして、僕は妻の方を見やり、妻は小さく頷き、ユンにことの事情を話しはじめた。しかし、驚いたことに、ユンは何も知らなかったのだ。
「僕はここ最近は毎日消えたお客のサイトの復旧をしています。あなたのことは社長(コア)から一切聞いていません。そんな大変なことがあったんですか」
肩透かしを食ったと思いきや、表情がみるみる変わったのは、隣に座っているコアの母親だった。コアの母親はすぐさま携帯を手に取り、コアに連絡をして、すぐ帰るように叱った。

それからほどなくしてコアが帰宅。僕と妻の顔を見て、顔が一気にこわばったのが分かった。
そして、僕と妻は努めて冷静にコアと今の現状を話し合った。
僕はてっきりコアが大声を張って言い返してくるのかと思ったが、どうやらコアは連日の顧客の対応で焦燥して疲れ切っているようだった。

そして、コアは僕にサーバーの情報を渡し、ドメイン会社にすぐ移転の連絡をすることを約束した。

その後……

【後編】ベトナム人にウェブを任せていたらウイルスが。なぜか訴えられるはめに

その後は無事オースコードを入手し、ドメイン会社を移転することができた。しかし、サーバーの情報はもらったが、結局サイトは一から作り直したのだ。水谷にサイトを見てもらったら、内部構造がめちゃくちゃで「ハリボテのサイト」と酷評されたからだ。だからソースコードのみ抽出し、日本人のエンジニアに改めて依頼して作り直してもらった。

これは2017年の出来事で、それから2年半が経った。あれからは一度もコアと連絡をとっていないが、コアのフェイスブックページを開いたら、時折更新されていた。しかし、仕事関係のことは一切なく、またコアの会社HPもずっと壊れたままだ。廃業して会社員に戻ったのかもしれない。また、あのあと弁護士に言われたのが、
「おそらくコアは1000万の賠償金を免れるために、君を脅したのと同じ手口を他の客にも使うだろうね。『あなたのファイルにあったウイルスが原因でサイトが消えた。賠償金をよこせ』ってね」
まあ、なんだかんだで結局は僕は一円もコアから支払ってはもらえなかったし、謝罪の言葉すらなかった。結局僕はサイトを失い、500近い記事を失って終わった。

僕がここで言いたいこと

今回の事件は、僕が個人事業をはじめて10年経ったいまでも最悪の出来事だった。現在この記事を執筆しているときは、新型コロナの最中で僕の仕事にも陰りが出始めている。それでも、「このときを思えば新型コロナなんて、なんてことないな」と思えるのは、コアのおかげかもしれない。

前中後編に分けて長々と書いてしまったが、僕が読者に言いたいことは、「それでもベトナムや東南アジアで働きたいか」ということだ。確かに新興国(=発展途上国)には夢がある。日本でできないことがベトナムでできる。しかし、日本で働いていれば到底経験し得ないような驚きのトラブルもあるし、トラブルの中にはどうすることもできなく、負けて日本へ帰国することを余儀なくされることもあるということは分かってほしい。

それでもアジアで働きたいという方は、是非挑戦してみてほしい。

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